全身管理マニュアル
視覚障害がある児の発達評価
・一般的な発達検査や知能検査
弱視の場合はそのまま施行できることがあり、盲児の場合でも検査項目を選んだり、多少の改変を行うことで実施できる場合もある。
例)「この指は何と言いますか(検査者は自分の親指を示す)」を「この指は何と言いますか(検査者は子どもの親指を触れる)」に変える。
例2)図版を見て答えさせる問題を、図版を触って分かるものにする。
ただ色々工夫をして実施しても、そこから得られる得点は純粋に知的機能のみを反映しているとは言えないため、
視覚障害の影響に十分留意して評価・解釈する必要がある。
・広D-K式視覚障害児用発達診断検査
我が国唯一の実用的な盲乳幼児用発達検査と言われており、0歳2か月〜5歳が対象。遠城寺式乳幼児分析的発達検査、
津守式乳幼児精神発達診断検査などの各種発達検査の中から、視覚障害がある故に判定しにくい項目を削り、まとめた検査であり、
つまり全盲の子供でも通過する内容を項目として取り上げている。
「I運動発達」として全身運動、手指運動、移動、「II 知的発達」として表現、理解、「III社会的発達」として活動、食事、衣服、衛生、排泄、
の各分野を含んでいる。
なお、市販はされておらず、五十嵐(1993)の文献などで公表されている。
視覚障害の発達への影響
五十嵐(1993)は視覚障害から発生する二次的要因として、「行動の制限」「情報の欠如」「視覚的模倣の欠如」「視覚障害児に対する社会の態度」の4点をあげているが、 視覚障害と知的障害が重複している場合には、これらの要因がより複雑化してくる。
- 「情報の欠如」あるいは「制限」されたの中では、外界へ興味・関心を向ける動機づけとなる魅力的な刺激が少ないこと。
- 情報が制限されている中では、積極的な移動や探索が少なく「行動の制限」を受け、家庭内においても手の届く範囲内の刺激にしかアクセスできないこと。
- 魅力的な刺激が少ない中で、外界とのかかわりや関係性における因果関係の理解が困難であり、知的障害があるとその期間がさらに長くなること。
- さらに主体的な外界への働きかけとそのフィードバックから得られる自己学習の機会や頻度が質・量ともに制限を受けること。
- 乳幼児期の行動の獲得に貢献する「視覚的模倣」が発動しないため、模倣により自発的に習得する動作や技術を一つひとつ周囲の大人から教えられることになり、 新しい行動の拡がりが少なく、このことが自発性や主体性にも影響を及ぼすこと。
視覚障害に発達遅滞が併存する、重複障害児のサポート
人の得る情報のうち80%以上が視覚情報である。視覚障害児へは、視覚の代わりに聴覚や触覚で事物・事象を捉えて認識の世界を拡げることを促すが、 発達遅滞を併せ持つ子供たちの指導には発達段階に応じた指導のステップを細かく準備し、さらに丁寧な指導が必要である。
前眼部形成異常
眼先天異常のうち主な異常所見が 前眼部(角膜・虹彩・隅角)に限局しているものであり,後部胎生環,Axenfeld 異常,Rieger 異常,後部円錐角膜,Peters 異常,強膜化角膜,前部ぶどう腫の総称である。
前眼部形成異常に伴う角膜混濁は角膜後面の欠損を基本所見とし,神経堤細胞の遊走異常に由来する6)~8)。
臨床像は多岐にわたり,上記の疾患群は一連のスペクトラムにある疾患群と捉えることができる9)~14) 。
20~30%に心血管異常,神経疾患,発達遅滞,全身多発形成異常など多様な全身異常を合併する2)5)19)。
発生学的に神経堤を共通の起源とする正中線上の組織の異常が多くみられることを特徴とする6)20)21)。
- <Peters異常>
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概要
前眼部形成異常の中で最も頻度が高い。両眼性の症例(71.8%)は,片眼性の症例(36.8%)と比較して全身合併症を有する確率が高い。 -
眼外合併症
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脳神経系異常
小頭症、水頭症、大脳萎縮、痙攣 -
先天性心疾患
心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存、肺動脈狭窄、ファロー四徴症、右胸心 -
頭頸部異常
口唇口蓋裂、巨舌、耳介低位 -
呼吸器疾患
喉頭軟化症、睡眠時無呼吸、肺低形成、漏斗胸、脊柱後弯症 -
消化器疾患
腸捻転、胃食道逆流、黄疸 -
発達の問題
発達遅滞、学習障害 -
内分泌疾患
下垂体機能不全
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脳神経系異常
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小児科診療の注意点
- 心臓超音波検査
- 腹部超音波検査
- 頭部MRI検査
- <Peters-plus症候群>
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概要
前眼部形成異常に口唇裂・口蓋裂,成長障害,発達遅滞,先天性心疾患などを合併したもの。 前眼部形成異常としてはPeters異常が最多。B3GALTL 遺伝子変異が報告されており,常染色体劣性遺伝を示す。 -
眼外合併症
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成長障害
四肢近位の短縮を伴う成長障害を全ての報告された症例で認めている。 成長ホルモン分泌不全を認め、成長ホルモンでの治療に反応良好だった症例もある。 -
精神運動発達の異常
発達遅滞 78-83%, 自閉症を合併することがある。 -
特徴的顔貌
前額部の突出、短い眼瞼裂、長い人中。上唇の二重弓線が目立つ。 口唇裂 45%, 口蓋裂 33%。耳の形態異常(耳前瘻孔など)33%、幅の広い首 75% -
先天性心疾患(33%以下)
心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、大動脈弁下狭窄症、肺動脈狭窄症、肺動脈二尖弁 -
泌尿生殖器異常(10-19%)
水腎症、腎・尿管重複、寡巨大糸球体を伴う腎低形成、多嚢胞性異形成腎 -
脳神経系異常
脳梁低形成もしくは欠損、水頭症、Dandy-Walker奇形、脳瘤、小頭症を伴う小脳低形成の合併が報告されている。 -
その他の合併症
先天性甲状腺機能低下症の合併の報告がある。
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成長障害
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小児科診療の注意点
前眼部形成異常に四肢の短縮と幅広の四肢末端、特徴的顔貌、口唇口蓋裂、発達遅滞の合併を認めたら本疾患を疑う。
- 心臓超音波検査
- 腹部超音波検査(腎奇形の検索)
- 血液検査で甲状腺ホルモン値の確認
- 神経学的所見を認める場合は、頭部CTやMRI検査
- 治療可能な成長障害の検出目的で、成長ホルモン分泌刺激試験
- 口蓋裂もしくは言語発達遅滞を認める場合は、聴力検査
- <Axenfeld-Riger症候群>
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概要
Axenfeld異常もしくはRiger異常に歯牙異常,顔面骨異常,臍異常,下垂体病変などを合併したものを Axenfeld‒Rieger 症候群と呼ぶ。 PITX2 遺伝子異常が報告されており,常染色体優性遺伝を示す。 -
眼外合併症
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特徴的顔貌
前額部の突出、眼間隔離、眼角隔離、上顎低形成、顔面の中央部が低く鼻梁が低い、薄い上唇、突き出た下唇 -
歯牙異常
矮小歯症、歯牙低形成、乏歯症、無歯症、円錐歯 -
臍異常
臍部の皮膚の余剰 -
その他
先天性心疾患、脳形成異常、下垂体機能異常、くも膜嚢胞、発達遅滞、難聴、 肛門狭窄、腎奇形、尿道下裂、屈指症、舌小帯短縮症の合併が報告されている
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特徴的顔貌
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小児科診療の注意点
- 心臓超音波検査
- 聴力検査
- 頭部MRI検査
- 腹部超音波検査(臍部の皮膚の余剰と臍ヘルニアの鑑別が必要な場合)
無虹彩症
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概要
無虹彩症は,眼球発生のマスタージーンであるPAX6 遺伝子の片アリルの機能喪失性変異によって発症する疾患である。 PAX6遺伝子は中枢神経,膵臓Langerhans島,嗅上皮にも発現しており,これらの組織の低形成により,脳梁欠損,てんかん,高次脳機能障害,無嗅覚症,グルコース不耐性などのさまざまな眼外合併症を伴うことがある。
PAX6と近接するWT1を含む 遺伝子の欠損があれば、WAGR症候群としてWilms腫瘍の発症がないか経過観察が必要である。
(WAGR症候群:Wilms腫瘍(Wilms’ tumor),無虹彩症(aniridia),泌尿生殖器異常(genitourinary anomalies),精神発達遅滞(mental retardation)を主徴とする)
無虹彩症全体の 3 分の1近くは WAGR症候群に含まれていることが示されている。家系内にほかに無虹彩症の発症者がいない場合あるいは臨床所見からWAGR 症候群を疑われる場合,遺伝学的検査を行うことが推奨されている。
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眼外合併症
いくつかの症例集積研究からのSystematic Reviewの結果,無虹彩症(WAGR症候群とそうでないものを含む)の眼外合併症の頻度は以下のとおりである。
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Wilms 腫瘍
無虹彩症患者でのWilms腫瘍合併率は 0% ~26.9%1)~10)であった。 -
泌尿生殖器異常
無虹彩症の 0% ~33.3%1)~10)に泌尿生殖器異常の合併がみられたと報告されているが,内訳についての詳報は少ない。 無虹彩‒Wilms腫瘍症候群患者の症例集積研究 では尿道下裂,停留精巣,重複尿管,外性器異常,鼠径 ヘルニア11)~12)が報告されている。 -
精神発達遅滞
無虹彩症の0% ~50%1)~10)に精神発達遅滞の合併がみられたと報告されている。 -
脳神経系異常
小頭症 9.1%2),水頭症 5.6%などの脳神経系異常の合併が指摘されている。 PAX6異常を伴う家族性無虹彩症に対して頭部磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)を行った報告では, 松果体欠損 30%,重度の脳形成障害10%,後交連欠損10%,視交叉・脳梁萎縮 10%13)の合併率であった。 -
その他の合併症
そのほか,歯牙形成異常 35%,筋骨格系異常 13%,喘息 12%,うつ病 12%,不妊 11%(うち6%は多囊胞性卵巣症候群による),胆囊疾患 8%,高血圧 8%,糖尿病 7%,嗅覚鈍麻 5%,膵炎 1%7) の報告がみられる。 WAGR 症候群に対する Fischbachらの調査では,扁桃切除施行例40.7%,鼓膜チューブ留置術施行例35.2%, 停留精巣35.2%,反復性副鼻腔炎27.8%,蛋白尿25.9%, 注意欠陥・多動性障害 22.2%,閉塞性睡眠時無呼吸症候群 20.4%, 反復性中耳炎 18.5%,自閉症 18.5%,肥満 18.5%,咬合異常 16.7%,アキレス腱硬直 16.7%,喘息 14.8%,脊柱側弯・後弯症 14.8%,腱反射異常 13.0%, 反復性肺炎11.1%,強迫性障害9.3%14) など,多岐にわたる合併症の報告がなされている。
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Wilms 腫瘍
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小児科診療の注意点
- WAGR症候群と診断した場合は,Wilms腫瘍の経過観察として,腎臓超音波検査を3ヶ月おきに8歳まで続ける。 (90%の患者が4歳まで、98%の患者が7歳までに発症するため)
- 遺伝子検査でWT1の欠損の有無を確認をしていない場合、WAGR症候群に準じて超音波検査を8歳まで行う。
- WT1の欠損がないことを確認している場合は、定期的な腎臓超音波検査の必要はない。
- 頭部MRI検査
- 血糖値、HbA1c値の測定
早発型網膜色素変性症・レーバー先天盲
・他臓器もしくは全身疾患に合併する網膜色素変性症(RP)
Usher症候群
(概要)アッシャー症候群(Usher syndrome)は,感音難聴と網膜色素変性症を合併する常染色体劣性遺伝性の疾患である。 その障害部位は内耳(特に有毛細胞)と網膜(特に桿体細胞)の障害であると考えられており,眼科、耳鼻科での診療、フォローを要する疾患である。
- タイプ1:先天性の高度~重度難聴を呈する。両側前庭機能障害を伴う例が多く,視覚症状は10歳前後より生じる。
- タイプ2:先天性の高音障害型の難聴を呈する。視覚症状は思春期以降に生じる。前庭機能は正常である例が多い。
- タイプ3:難聴視覚症状とも思春期以降に生じ,難聴は徐々に進行。 その病態としては、内耳と網膜に共通する疾患発症メカニズムと内耳,網膜特有の疾患発症メカニズムの組み合わせによるものと考えられている。
Bardet-Biedl 症候群
肥満,RP,性器発育不全,精神遅滞,指趾の奇形(多指症,合指症)を主徴とする常染色体劣性遺伝性疾患。 黄斑の萎縮が比較的早期に認められ,視力が低下する症例が多い。
ムコ多糖症
ⅰ) Hurler 症候群
a-L-イズロニダーゼの先天的な欠損によるムコ多糖症。常染色体劣性の遺伝形式をとる。
RP に加え,ムコ多糖症に共通する,Gargoyle 顔貌,知能障害,水頭症,感音性難聴,関節拘縮,ヘルニア(臍,鼠径)などが認められる。
その他の眼所見としては,進行性の角膜実質混濁が認められる。
ⅱ) Hunter 症候群
イズロン酸-2-スルファターゼの先天的な欠損によるムコ多糖症。X 連鎖性の遺伝形式をとる。
RPに加え,ムコ多糖症に共通する Gargoyle顔貌,知能障害,水頭症,感音性難聴,関節拘縮,ヘルニア(臍,鼠径)などが認め られる。
その他の眼所見として,頻度は低いが角膜病変が認められる。
Kearns-Sayre 症候群
ミトコンドリア病の一つで,進行性の外眼筋麻痺に胡麻塩状眼底を呈すRPと心伝導障害を合併する。孤発型。 小児期から成人で発症。その他の眼所見として,眼瞼下垂が認められる。
乳児型 Refsum 病
ペルオキシソーム形成異常症の一つ。常染色体劣性の遺伝形式をとる。乳児期に発症。 RPに加え,顔貌異常,難聴,肝腫大,発達遅滞が認められる。 幼少期に死亡する例が多い。その他の眼所見として,眼振が認められる。
その他
Alagille 症候群,Bassen-kornzweig 症候群,Cockayne 症候群,Hallervorden-Spatz 症候群,Rud症候群など, まれな疾患との合併も報告されている。
